技術・研究開発
Technology/R&D

コーティング技術解説コラム
薄膜を作るには
真空蒸着とは
真空蒸着とは、真空中で金属や金属酸化物などの成膜材料を加熱して、溶融・蒸発または昇華させて、基材や基板の表面に蒸発、昇華した粒子(原子・分子)を付着・堆積させて薄膜を形成する技術です。
蒸着の原理
水を入れて熱した鍋にフタをすると、内側には湯気が付着して水滴ができます。
水を加熱すると水蒸気となって蒸発します。その上にたとえば板を置くと水蒸気が付着して水の膜ができ、やがて水滴となります。その水滴になるまでの、水の膜ができる状態。この原理が、蒸着と同じです。
蒸着では、水ではなく、金属や金属酸化物などを加熱して蒸発気化させ、基材や基板に表面処理や薄膜を形成します。水は100℃で沸騰しますが、金属などは溶かすだけで数百℃以上、気化させるには数千℃の温度が必要です。
そこで、減圧して気体分子も減少させた真空状態が必要です。
真空中ですと、金属などの蒸気圧の温度を下げることができ、千℃前後の加熱で金属などを気化させることが可能となります。また、残留の気体分子も減少していますから、障害が少なく平均自由行程が大きく、金属などの気体粒子が飛びやすくなり、不純物も極めて少ない薄膜形成が可能となり、金属などで表面処理や薄膜を形成できます。
これが判り易くしたご説明、真空蒸着の原理です。
真空蒸着の加熱方法
真空蒸着で、成膜材料の加熱には、代表的な3種類の方法があります。
(1)抵抗加熱 | 低融点の成膜材料に適す。 W、Mo、Bなどの抵抗体に電流を流し発熱させ、発熱した抵抗体に成膜材料を供給して、成膜材料を加熱・蒸発させて薄膜を形成する方法。 |
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(2)高周波誘導加熱 | 低融点の成膜材料に適す。 カーボンなどのルツボ内に収納した成膜材料を、高周波誘導加熱により加熱・蒸発させて薄膜を形成する方法。 |
(3)電子ビーム加熱 | 高融点の成膜材料に対応が可能。 耐火物などのルツボに収納した成膜材料に、電子ビームを照射することにより、成膜材料を加熱・蒸発させて薄膜を形成する方法。 |
真空蒸着の成膜材料(代表例)
金属 | Al,Ag,Au,Ti,Ni,Cu,Cr,Sn,In,etc. |
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酸化物 | Al2O3,SiO2,etc. |
真空蒸着の特徴
- 比較的に装置の構造が簡単
- 金属から有機物までの成膜が可能
- 成膜材料の大量蒸発が得られ、成膜速度が速い
- 高真空での成膜で高純度
- 蒸着エネルギーが熱のみのため付着力はやや弱い
- 抵抗加熱では低融点の成膜材料に適す
- 電子ビーム加熱では高融点の材料も成膜が可能
特殊な真空蒸着の種類と特徴
DC・RFイオンプレーティング(DC,AC Ion plating)
- DC,RFの放電により蒸発物質をイオン化、高エネルギー化
- 膜の密着力UP、結晶性良
- 反応性の促進、P-CVDとの混合膜
- 膜厚分布に問題、有機物質のコンタミネーション
活性化反応性蒸着(ARE: Activated Reactive Evaporation)
- ルツボと電極の間に電圧を加え、2次電子によりプラズマを発生
- イオン化したガスと蒸発金属を反応させる
- プラズマの制御性が良く、膜の組成制御も良い
- 蒸発源と基材はプラズマの影響を受けず、高速の成膜可能
中空陰極法(HCD: Hollow Cathode Discharge)
- LaB6陰極のアーク放電、低電圧・大電流プラズマを発生
- プラズマで加熱、活性化
- 高密度プラズマの雰囲気、高エネルギー(密着性・反応性良)
- 陰極プラズマガンの寿命が短く、膜の制御性に乏しい
【その他】
- レーザーアブレーション(Laser Ablation, PLD: Pulsed Laser Deposition)
- 分子線エピタキシ(MBE: Molecular Beam Epitaxy)
- クラスターイオンビーム(ICB: Ionized Cluster Beam)